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誉田真大学一年。泳ぐのが好き(阿江)
ここについて

No.84

濵中琴乃
いいねしたよその子との存在しない小説の一文を抜粋する
omikoさんへ +掛川シ集メンバー



 今日、めっちゃ調子いい。
 その言の通り、瑠夏の束感のあるまつげはダマになることなくきれいにマスカラでコーティングされ、伏し目がちな彼女の視線の輪郭をはっきりさせていた。
「い~ね。新しいの買ったの?」
「いや、いつもの。なんか今日すごい綺麗にできた」
「そういう時あるよね~」
 琴乃は自身の爪を確認しながら相槌を打つ。乾ききるまえにうっかりぶつけてはがしてしまって、間に合わせのようにラメを埋めた左手の中指の中心が、いびつに盛り上がっている。調子がいい、悪いで言えば、悪かったときの出来だ。まあ、瑠夏に褒めてもらったから、いいけど。
「そういえばさ、飲んでる?」
「え?」
 瑠夏の投げかけた問いを、琴乃は即座に打ち返すことができなかった。
 二人は現在、チェーンのカフェにいる。お互い飲み物を注文したから、まあ現在進行形で何かを飲んではいるのだが。瑠夏は目の前のカプチーノとは別のものを指しているようだった。
「緑茶」
「あ~、掛川の」
「そう」
「半年前か。え、まだ終わってないの?」
「いや、飲んでるんだけどさ!なんかすごいおいしいときとめっちゃ渋いときない?」
「え!あれウチだけじゃなかったんだ!」
 共感を形成した二人の会話に熱がともる。掛川市で帰りに購入した茶葉。包装パックの裏に書かれている順序の通りに入れているのに、そのときそのときで味が異なる。あの市で飲んだお茶は、飲めたお茶は、一様ではないにせよ、ぜんぶおいしかったのに。
「一回めっちゃおいしいのできて、それにしたいな~と思って丁寧に入れたらなんか濃くなっちゃって」
「わかりすぎるんだが~~~」
「あれやっぱりそういうもんなんかな⁉」
 地元民の蕃茄はいざ知らず、瑠夏と琴乃は家で緑茶を入れることなどそうそうなかった。飲むに堪えないほどの出来にはならないのだが、基本的に可もなく不可もない、お茶の味だ。そうやって飲んでいると、ふと奇跡のようにおいしい一杯が出来上がる。再現をしようとしたら遠ざかり、かえって雑に淹れたらまた現れたりする。
「ばんちゃんちのお茶はいつもおいしいのかな~」
「どうなんだろ。ばんちゃんの入れるお茶の味が安定してるってイメージあんまないけど」
「そうかも」
「優くんが凝ったら淹れるの上手になったりして」
「あるかも!!!」
 二人の会話は弾み、やがてどちらともなくあの旅行で使用したトークチャットを開く。お茶の淹れ方について蕃茄も加えてああだこうだメッセージを交わした後、やや時差をおいて優の返信があった。

 また、掛川でみんなでお茶飲みたいね。



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