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誉田真大学一年。泳ぐのが好き(阿江)
ここについて

No.88


いいねしたよその子との存在しない小説の一文を抜粋する

ちぇりぃさんへ ファタルコール




 どうやって生きているのだろう。
 出会うといつも赤ら顔で、自我の一部を手放している男に対し、イツカは率直にそう思った。
 イツカは酒が飲めない。具合が悪くなるというのが大半の理由だが、自我が奪われていくような感覚が気に食わなくて、あまり飲みたくない、と考えている。不運がちな自分は、いつでも気を巡らせていないといけない。いつどこで転んでスマホの画面を割ったり、あいまいな発音で聞き間違いを起こした相手を激昂させたりするかわからない。自我を手放している場合ではない。いつでも自分は、自分のコントロールの中に置いておく必要がある。
 そんなイツカにとって、御酒本の生き方は素朴に理解の埒外だった。年中酔っぱらってはいつ何が起こるかわからないのに。
「御酒本さんってどうやって生きてるんですか?」
「え?バーテンだけど。なんで?」
「なんか、そんなかんじで生きていけるもんなのかなって。」
「あの~、職業に貴賤をつけるのはよくないよ~?イツカちゃん。」
「そうでなくて!ふらふらして、ぽわぽわしてるじゃないですか」
「ぽわぽわ~?」
「そんなかんじで!でも危ない目にあったりしないんですか?」
 御酒本は質問の意図がつかめているのかいないのか、気の抜けた顔でん~?と鼻を鳴らして
「大丈夫だよ」
「え?」
「危ない目にあっても、いいんだ、おれは」
 だから大丈夫なんだよ、と笑う御酒本は、なんだかどこか投げやりな様子だった。



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