あの角で待ち合わせ
誉田真大学一年。泳ぐのが好き(阿江)
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No.99
ヤゼル自陣二次創作小説
ネタバレはない。
幻夜くん、と彼のことを呼ぶと、周囲にびっくりされることがある。幻夜くんはかなりの売れっ子監督で、周りからも遠巻きにされているから、彼を下の名前くん付けで呼ぶ人物がいること、そしてそれがおれであることは、周りからしたら意外なようだった。
釣り合わない、ということなのかな、と思う。思うというよりは、周りの認識を模倣して想像すると、そうなる。おれ自身は別に、人と人が釣り合うことなんてないって思うから思わないけど、たぶん、そうなんだろう。どん底とかでもないけど売れてもない、たまにハネて基本は外す映画監督が、あの社林幻夜と打ち解けている。それは不思議なことだろう。
「……そういう話、おれにきかせてどうしたいの。」
掠れて静かな、けれど必ず耳に届く声がおれを咎めている。幻夜くんは、自分が特別扱いされているという話を聞くとたいていむくれる。せっかく久しぶりに飲んでるんだからさ、とぶつぶつ言っている。
「いや、最近あったことってなんだったっけって思って。」
「……そう。で、なんて周りに説明したの。」
「幻夜くんとは付き合いも長いのでって。」
「それだけ?」
「うーん、意外と年下に馴れ馴れしくされるの好きみたいですよ、とか。」
「……ふーん。」
「ちがった?」
「わかんない。おれと普通に話そうってしてくる年下って宕くんだけだし。」
「幻夜くんはさ、なんかかっこいいのが良くないよね。」
「え?」
今度は拾うのが簡単な、明瞭な驚きが返ってきた。疲れた目元が見開いて、少し薄い色の瞳がよく見える。
「俳優とかもやってて表情もいい感じだし。それで実力もあると、やっぱ、嫌われたくないじゃん。そういう素敵な人に。」
「宕くんはおれに嫌われてもいいってこと……?」
「まあ、おれは、別に。嫌われてもいいっていうか、誰でもおれを嫌いになることはあるだろうって思うから。」
「おれがきみを嫌いになるって思うってこと?」
「人はみんな相手をふと嫌いになることはあるでしょ。幻夜くんもまあ、例外ではないというか。」
「あんまりそう思ってほしくないけど。」
「まあ、だからわりと気楽に話せてるってことだよ。」
「なら良かったのかな……。」
幻夜くんはグラスに口をつけ、ふう、と息を吐いた。最近、というか、思い返せば基本的にずっと、幻夜くんは寂しそうだな、と思う。彼を慕う人はあんなにいるのに、彼はそうやって慕われている人物を自分自身と認識しない。
「なんか卑屈だよね、幻夜くんって。」
「それおれに言ってるの?」
「え、うん。」
幻夜くんは今度はながいながいため息をついた。まるでおれに当てつけるように。
こういう不機嫌な幻夜くんを見るのが、おれは結構好きなのだ。
畳む
〔27日〕
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ヤゼル自陣二次創作小説
幻夜くん、と彼のことを呼ぶと、周囲にびっくりされることがある。幻夜くんはかなりの売れっ子監督で、周りからも遠巻きにされているから、彼を下の名前くん付けで呼ぶ人物がいること、そしてそれがおれであることは、周りからしたら意外なようだった。
釣り合わない、ということなのかな、と思う。思うというよりは、周りの認識を模倣して想像すると、そうなる。おれ自身は別に、人と人が釣り合うことなんてないって思うから思わないけど、たぶん、そうなんだろう。どん底とかでもないけど売れてもない、たまにハネて基本は外す映画監督が、あの社林幻夜と打ち解けている。それは不思議なことだろう。
「……そういう話、おれにきかせてどうしたいの。」
掠れて静かな、けれど必ず耳に届く声がおれを咎めている。幻夜くんは、自分が特別扱いされているという話を聞くとたいていむくれる。せっかく久しぶりに飲んでるんだからさ、とぶつぶつ言っている。
「いや、最近あったことってなんだったっけって思って。」
「……そう。で、なんて周りに説明したの。」
「幻夜くんとは付き合いも長いのでって。」
「それだけ?」
「うーん、意外と年下に馴れ馴れしくされるの好きみたいですよ、とか。」
「……ふーん。」
「ちがった?」
「わかんない。おれと普通に話そうってしてくる年下って宕くんだけだし。」
「幻夜くんはさ、なんかかっこいいのが良くないよね。」
「え?」
今度は拾うのが簡単な、明瞭な驚きが返ってきた。疲れた目元が見開いて、少し薄い色の瞳がよく見える。
「俳優とかもやってて表情もいい感じだし。それで実力もあると、やっぱ、嫌われたくないじゃん。そういう素敵な人に。」
「宕くんはおれに嫌われてもいいってこと……?」
「まあ、おれは、別に。嫌われてもいいっていうか、誰でもおれを嫌いになることはあるだろうって思うから。」
「おれがきみを嫌いになるって思うってこと?」
「人はみんな相手をふと嫌いになることはあるでしょ。幻夜くんもまあ、例外ではないというか。」
「あんまりそう思ってほしくないけど。」
「まあ、だからわりと気楽に話せてるってことだよ。」
「なら良かったのかな……。」
幻夜くんはグラスに口をつけ、ふう、と息を吐いた。最近、というか、思い返せば基本的にずっと、幻夜くんは寂しそうだな、と思う。彼を慕う人はあんなにいるのに、彼はそうやって慕われている人物を自分自身と認識しない。
「なんか卑屈だよね、幻夜くんって。」
「それおれに言ってるの?」
「え、うん。」
幻夜くんは今度はながいながいため息をついた。まるでおれに当てつけるように。
こういう不機嫌な幻夜くんを見るのが、おれは結構好きなのだ。
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