半藤斐文[7件]
紙魚のうた・最強LOVERSネタバレ 七夜の恋人たちのウォーミングアップ小説
「じゃあお前は、その夷川ってやつとセックスをしたわけだ。それも2回も。」
「そうですね。」
ここはどこだろう。白く柔らかい印象の壁紙や床、そして観葉植物、手元にはクッション。かつて担当していた作家の付き添いで行ったカウンセラー室を思い出した。
「そいつの前で裸を晒したってことだろう?それをしてどうだった。」
「どうも、こうも。」
「セックスは気持ちよかった?」
「痛くはありませんでした。多分、そういう仕様に体がなっていたんだと思います。」
目の前にいるのは誰だろう。友人のような気がしたけど、こんな話をする友人が自分にはいただろうか。なんだか妙に高飛車な言い方で、こちらを抑圧するようなそぶりだ。ぱさついた明るい髪をがりがりと掻いて、足も組んでいる。目線も合わせない。カウンセラー室には似つかわしくない性根の人物に思えた。
「気持ちよかった?」
相手がもう一度同じ質問をしてきたから、半藤は記憶を探って自身の感覚を確かめなければならなくなった。あのときは、とにかく彼と離れたくなくて、離れたくないなあ、と思ったら触れることができて、確かあたたかった。重たいものを抱えていたら解放されて、また重たくなって、気分がどんどん自分の支配を外れていった。だから、
「快楽はあったと思いますが、居心地は悪かったです。」
「それはどうして?」
「自分をコントロールできない気がして。」
「自分を、コントロールしたい?」
「コントロールした方がいい、と思います。」
「どうして?コントロールしていない人間をみっともないと思う?」
「それは、時と場合によります。だけれど、」
自分をコントロールできていない自分は、みっともないし、交流するに値しないと思う。
だって、自分には、本になるほどの何かなんか、一つもなかったわけだし。
「へえ。じゃあそのみっともない姿を見た夷川……さんは、お前を嫌悪したのかな。」
「いや……。」
むしろその逆で。すこし、好きだと言っていた。この気分が整理されないと、仕事に支障が出るくらい、だと。
だから彼はあの川で、おそらく、自分を好きになったきっかけに及ぶ範囲の、「気まずい部分」を忘れ去った。
そういうと目の前の男は顔を上げた。今までちっとも目が合わなかったのに、なぜだかじっとりと、顔を見つめられた、ような気がした。
「いやだった?」
「え」
目が合う。男の──脱色して桃色に染められた髪が邪魔して、右目が見えにくいな、と思った。
目が覚めた。畳む


CoCTRPG『七夜の恋人たち』2ネタバレ 紙魚のうたもしかしたらネタバレ ぜん茶さんの卓ログと後日談の続きイメージ二次創作
『何も問題や異変起こってないですよね?』
妙に夢見が悪かった気がした。肩や首がきしんでいて、確認すれば枕がずれていた。
背中が固まると呼吸がしにくい。半藤は長く呻って、なんとか伸びをして、スマホを開いた。そのメッセージは夷川からだった。
問題や異変、という言葉にピンとくるものはなかった。また何かに巻き込まれているのだろうか、と嫌な予感がしてアプリを開いたところで、おそらく彼と同じであろう今日見た夢の内容を思い出した。そういえば、結構危機だった。
なんだか夷川らしくない夷川だったな、と感じていたから、夢だとわかって納得した。少なくとも半藤の中では、彼が自身の命より半藤の命を優先することはない。夷川は、半藤と夷川が違う人生を歩んでいるのだということを問うまでもなく了解している。そういう点で、楽で、安心できる相手だ、と思っている。
『先ほどは大変失礼しました』
『無事だといいんですが』
無事だ。無事で、特に、夷川が心配するようなことは何もない。そもそも何に、謝っているのだろうか。
「チェンジで」
ああそうだ。そんなこと言っていた。でも、そう。そんなこと。さんざん言われてきた。
意外とつまらない。
もっと何か、考えてるやつだと思ってたけど。
もう十分わかっているから、別に、
『全く問題ありません』
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